[クリエイターインタビュー]
Ira Prince Vallsさん
海外で活躍するインディーズTRPGクリエイターに迫るクリエイターインタビュー。
第二弾は『アイズ・オン・ザ・プライズ』でも記憶に新しいアイラ・プリンス・ヴァルズさんにお話を伺っていきたいと思います。
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏に迫る
※このインタビューは6/27(EST)に行われたものです。
Malström:
普段はどんなTRPGを遊んでいますか?
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏:
正直に言えば、そこまでは遊べていないんです。TRPGのためのイラストや文章に費やす時間は多いのですが、実際に遊べる時間はあまりなくて。なので、私がTRPGを作ることが好きな理由は、他人のプレイ風景を想像するのが実際に遊ぶ感覚に似ているからだと思っています。それに、作品のアイデアが思いつくのは、そうやってプレイヤーがどんな風に遊んで、どんな話を作るのかを想像しているときがほとんどだったりします。
でも実際に遊ぶときは、最近はインディーTRPGを遊んでいます。ほとんどのゲームは商業作品より短いし、ワンショットで遊べるものが多いから、私のスケジュールとも合わせやすいんです。それに、創作面からも見てもとても参考になります。インディーTRPGは、有名でシリアスな大型システムとは趣が違って、発想がユニークなことが多くて面白いんです。自分のことをルールブックコレクターと言ってもいいかもしれません。まだ遊んだことないルールブックをたくさん持ってますが、ただ眺めたり、読んだり、ひとつのアート作品として考察を巡らせたりするのを楽しんでいます。たとえ遊ぶ時間がなかったとしても、読んで楽しめるTRPGは、それだけで私にとっては大いに価値があるんです。
Malström:
初めて遊んだTRPGは? どのようなセッションでしたか?
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏:
面白いことに、私が初めて遊んだシステムはクトゥルフ神話TRPGなんです。日本では影響力がある人気のシステムですよね? 海外でいうダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)と同じような存在で、たくさんの人がクトゥルフ神話TRPGを最初に遊んでいると聞きました。
それまでにも「偽スタート」みたいなものはたくさんあったんです。本当はD&Dを最初に遊ぶはずだったし、ヴァンパイア:ザ・マスカレードやワーウルフ:ジ・アポカリプスを遊ぶ予定もありました。みんなで集まってキャラクターシートは作るものの、結局いつも遊べないまま終わっていました。クトゥルフ神話TRPGが、やっとプレイまでにこぎつけた最初の1回だったんです。大学の友人とやった1回きりのセッションで、その後継続して遊ぶことはなかったので、セッションの内容はよく覚えていません。でも、確かなのはその時作ったキャラクターも詐欺師だったことです。初めて作ったキャラクターが詐欺師で、初めて作ったTRPGが詐欺師にまつわるものなのは、改めて考えると面白い偶然ですよね。
初めて遊んだとき、TRPGのことはまだよく知らなくて、D&Dも聞いたことがあった程度でした。ただ友人に「遊んでみる?」ってきかれて、よくわからないまま参加しました。そのとき、キャラクター制作が本当に楽しかったんです。初めてキャラクターの設定を考えたり立ち絵を描いたりしたとき、とても愛着が湧いてしまって、その子のロールプレイを続けたいと思いました。今でもそのときと同じで、TRPGを遊ぶ上で一番楽しみにしているのはキャラクター制作です。
Malström:
自分でTRPGを作り始めた理由は? キャラクター制作への思いと関係はあるのでしょうか?
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏:
そうだと思います! 私が新しいシステムに興味を持つのは、そのゲームじゃないと作れないキャラクターや起こりえないロールプレイが想像できたときです。ゲームを作るときも同じで、キャラクターを引き立たせるための作品や、キャラクター同士の印象深い瞬間が演出できる作品を作ることに熱意を注いでいます。そういう瞬間は、私がTRPGをプレイしているときに不可欠だからです。
Malström:
その他に、『アイズ・オン・ザ・プライズ(EotP)』を制作するに至った理由などありますか?
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏:
『EotP』に関していえば、妻が大きなインスピレーションをくれました。妻と私はいつもキャラクターを作ったり小説を書いたりしていて、そこから着想を得ています。私たちの結婚生活に問題があったとかじゃありません(笑)
お仕事で描いているものも含めて、私が描くイラストの90%は私と妻が一緒に描いているものに影響を受けています。創作は、私たち2人の大切な趣味の1つなんです。
『EotP』の表紙にいるのは、私たちのお気に入りのキャラクターたちです。あのキャラクターができたのは、2人で好きなキャラ属性について話し合っていたときでした。会話の中で、まだ偽装結婚カップルを作ったことないなんてびっくりだねってどちらかが言ったんです。それで、確かにやったことないね、じゃあやってみようかって話になって。
その時期はちょうど私がインディーTRPGにはまっていた頃で、グラフィックやデザインをより重視したライトなシステムを見かけて、自分でも作れそうだなと考えていたときでした。その前は、TRPGはみんな参考書と同じくらいの分厚さで、D&Dのように大規模なものだとばかり思っていました。自分でシステムを作るなんて考えたこともなかったんですが、軽量型のTRPGに出会ったとき、やろうと思えば自分で作れるものなんだなって気が付いたんです。そういうことを考えていた時期に、妻との創作のことが念頭にあって、偽装結婚はいろんなキャラクターで遊べて面白いんじゃないかと思い始めました。それが『EotP』の制作に繋がったんです。
正直、最初はあまりに汎用性がないんじゃないかと心配していました。よくもまあ特定のキャラクターだけを想定してここまで書いたなと、自分に呆れていたことを覚えています。もしかしたら他に遊べる人なんていないかもしれない、もしかしたら私と妻が繰り返し遊ぶだけになるのかも、などと考えました。でも、友人たちとプレイテストをしていたとき、みんなが魅力的なキャラクターを短時間で作ってくれて、大丈夫かもしれないなって思ったんです。これ、他の人も遊べるやつだなって。
Malström:
表紙の2人は、あなたと奥さんがつくったキャラクターだとお聞きしました。どんな設定があるんですか?
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏:
彼らはプレデルとドロジエーといいます。 表紙の左にいるプレデルは妻のキャラクターで、右にいる尻尾が生えているキャラクターが私が作ったドロジエーです。
もともと、このキャラクターたちは『モンテ・クリスト伯』を題材にしたアニメの『巌窟王』にとても影響を受けていました。宮廷の陰謀にまつわるひと騒動と、月で開催されるきらびやかなパーティーを交ぜ合わせたみたいな、スペースオペラのような設定が大好きなんです。
だから、最初あのキャラクター2人はSFの世界観に合わせて作られたし、偽装結婚した理由も2人が長年続いていた不毛な宇宙戦争に巻き込まれたからでした。彼らが戦争から帰って来たとき、戦争の惨劇とそれに加担した自分たちに対する賛美を目にして、彼らは自分の国にひどく幻滅しました。それで「それなら国王を殺してしまおう!」となったんです。「国王を殺して一件落着だ!」「それくらい頭に来てるんだぞ!」みたいな。本当に面白いことに、彼らの物語を振り返ると、彼らが国王暗殺のために偽装結婚しなくちゃいけない理由なんてどこにもないんです。でもきっと2人の頭の中では、怪しまれずに時間を共有して、お互いの資源を有効に使うための方法が偽装結婚だったんでしょう。
彼らは最終的に『EotP』で「愛情」エンドを迎えました。最初は性格の相性も悪かったし、お互いに対して敵対的だったんですが、どんどん思いが募っていって、最後には本当に恋に落ちることになりました。私と妻が今までに作ったなかでも、特に思い入れのあるお気に入りのカップルです。
Malström:
『EotP』が発売されたとき、日本のプレイヤーから様々な反応を頂いたと思います。反響を見てどうでしたか?
アイラ・プリンス・ヴァルズ氏:
説明するのが難しいんですが、ずっとわくわくしています。自分が作ったものが好反応を貰えて、いろんな人が話題にしているのを見るのは、いつだって心が踊ります。それが自分が予想もしていなかった人なら尚更です。
公式に日本語版が発売される前からたくさんの人が興味を持ってくれているのを見て、驚くと同時にとても嬉しく思っていました。自分で翻訳していた人までいて「スラングと慣用句ばっかりでごめんね!」なんて思っていたけど、それ以上に、自分の作品のためにそこまでの時間や労力をかけてくれる人がいる事実に感動していました。
みなさんの温かい言葉や感想は、すべて読んでいます。これを言って誰かが嫌な思いをしないといいのですが、たまに日本語でタイトルを検索して、どんなことを言われているのかをこっそり確認しているんです。ココフォリア部屋を用意したり、立ち絵を描いたり、卓報告をしてくれたり、そういう反応こそ私が欲しいものだし、そういう反応をたくさん頂いています。とても嬉しいです。
最近、日本での反応について考えていたとき、子供の頃の夢を思い出しました。大勢の人と同じように私もアニメや漫画をたくさん見ていたから、いつか漫画家になって、日本でも出版されるような漫画やキャラクターを描けるようになれればいいなと思っていたんです。漫画業界についてや翻訳やローカライズがどういうものかはまったく理解していないころだったけど。今、当時を振り返って、自分が描いたものが漫画じゃない別の形で読まれていることを子供の頃の私が知ったとき、どう思うんだろうと考えます。そんなことを夢見ていたなんてほとんど忘れていたけど、その夢が実際に叶っている。そう思うと、本当に、本当に喜ばしい気持ちです。