[クリエイターインタビュー]Sprinting Owl Designsさん
海外で活躍するインディーズTRPGクリエイターにお話を伺う、クリエイターインタビューの第一弾は、『Rod, Reel, & Fist』や『Pie Lent Hill』、『Cthork Borg』『Fisk Borg』などの個性的な作品を意欲的に数多く制作されているSprinting Owl Designs氏にお話を伺っていきたいと思います。同氏は活動の場であるitch.ioではKumada1というハンドルネームでも活動されています。
代表作である『Rod, Reel, & Fist』は、危機に陥った村を救うため、PCが伝説の大魚を釣り上げようとする魚釣りアドベンチャーTRPGです。ルールはジャンケンをモチーフにした非常にシンプルなものとなっており、誰でも簡単に理解することができます。また、世界観を自由にカスタマイズできたり、釣り大会のルールだけを他のシステムへ持ってくることが出来るので、今遊んでいるTRPGシステムのキャンペーンの合間に息抜きとして追加することもできる。
『Cthork Borg』は大人気システム『Mörk Borg』をベースに、1920年代のジャズエイジ…つまりMörk Borgで1920年代CoCを遊ぶというコンセプトのハック(あるゲームのシステムに手を加えて独自の新しいゲームを作る)です。Mörk Borgのルールに則り、職業やアイテムをランダムに決めていくのですが、狂気度や社会的地位に関する独自ルールが追加されていたり、アーティファクトや呪文、神話生物などのデータ、そしてサンプルシナリオまでついてくる120pの意欲作となっています。
『Pie Lent Hill』は日本のゲーマーであれば思わずクスリとしてしまう強烈なタイトルが目を引くホラーTRPGです。本作はサイ○ントヒルを思わせる怪しげな田舎町を舞台に、ピザ屋の宅配バイトとなって夜勤に勤しむという内容のゲームで、宅配を続ける度に町の様子がおかしくなり、やがて恐るべき真実が明らかになる…というユニークな作品です。タイトルもさることながら文中の言葉遊びが秀逸であり、作中用語もPC(Pizza Carrier)やGM(General Manager)と言ったような遊び心に溢れている。
Sprinting Owl Designs(Kumada1)さんに迫る
※インタビューは12/14(EST)に行われたものです。
Malström:
Sprinting Owlさんについて教えてください。
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私はネット上でSprinting Owl(スプリンティング・アウル)という名義で活動してて、小規模なTRPGデザイナーとしてTRPGなどの制作・リリースを行なっています。私の代表作は『Rod, Reel, & Fist』なのですが、私はここ数年は各週ペースで小さな新作をリリースし続けているので、他にもたくさんのゲームを作っています。
Malström:
ところで、TRPG制作の活動の場であるitch.ioでのKumada1というユーザ名には日本語的な響きがあるように感じられますが、何か名前にまつわるエピソードはあるのでしょうか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
実はわりとランダムに選んだものなんです。そうですね…itch.ioが存在するよりもずっと前、2000年代だったかな、私は授業で『火垂るの墓』を観観てたんだ。作中で主人公である兄が、妹と一緒に浜辺で追いかけっこをしているシーンがあったんだけど、そこで兄が「熊やどー!(I’m a bear!)」と叫んでいるシーンがあった。この映画は決して明るく軽いトーンの作品じゃないんだけど、私はそれを見た時、他のシーンとは違って、ここだけはとてもハッピーで軽い雰囲気がしたんだよ。だから、どうにもそれが強く印象に残ってたんだ。そこでItch.ioのユーザ名を登録する時にふと、「I’m a bear…」つまり、熊だ(Kumada)って入力したんだ。あの、念のため言っておくけど、私は別に日本語が得意なわけじゃないよ!(笑)
Malström:
今までどんなTRPGを遊んできましたか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私はわりとゆっくりTRPGを遊んで来たよ。本格的に自分でTRPGを作って公開し始めたのは4、5年前からだね。最初に遊んだTRPGは『D&D第3.5版』だったよ。そこから別の作品を何作か遊んでたんだけど、その中に『ゆうやけこやけ』もあったんだ。そこからダイスを使わなかったり、ダイスの代わりにポイントを消費するゲーム、つまり伝統的なD&D的な形式に囚われない色々なスタイルのTRPGに興味を持つようになったんだ。
『ゆうやけこやけ』は2006年にサンセットゲームズより発売されたTRPGです。優しい雰囲気を楽しめるゲームであり、ダイスやカードなどのランダム要素を一切使用せず、ロールプレイによってのみ進行するというシステムが特徴です。現在はインコグ・ラボよりサポートされています。
Malström:
Sprinting Owlさんが様々なTRPGを制作する上で、インスピレーションの元となっているものには、どういったものがありますか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私は色々なものから少しずつ影響を受けてるよ。例えば私はビデオゲームを遊んだり、本を読んだりするから、そう言った作品の中から着想を得ることもある。だから何か一つの作品や作家からというよりは、そういった色々な部分からアイディアを得てるんだ。ただ着想元が具体的なものもあって、「Rod, Reel, & Fist」なんかは、日本のゲームソフト「ぬし釣りシリーズ」の影響を少し受けているね。他にもヨーロッパの民話に影響を受けた作品とか、ラヴクラフトやロバート・ブロックといった作家に影響を受けた、コズミックホラーをテーマにしたジャンルの作品も作ったことがあるよ。
『ぬし釣りシリーズ』は、1990年にパック・イン・ビデオより発売されたゲームソフト『川のぬし釣り』を始めとするシリーズです。主人公が川や海の“ぬし”と呼ばれる魚を求めて旅をする釣りRPGであり、ほのぼのと釣りをする意外にも、クエストや野生生物との戦闘など、様々な要素がある作品です。
Malström:
他の作品から影響を受けたタイトルといえば、『Pie Lent Hill』は日本のTRPG界隈でも少し反響がありましたし、実際に動画サイトでセッション動画を公開する方もいましたね。それについてはどう思われましたか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私が作ったTRPGが英語以外の言語で遊ばれるなんて本当に興奮したよ。これはとても嬉しかったですね。正直なところ、私の作ったゲームが英語のみならず、他の言語で実際に遊ばれるなんてことは夢にも思っていなかったから、本当にワクワクしたんだ。
Malström:
『Pie Lent Hill』もそうですが、Sprinting Owl氏の作るゲームは、作中の雰囲気とテーマのコントラストが素晴らしいですね。
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私はゲーム中のテーマやトーンのコントラスト(対比)というものが好きなんだ。例えば非常に陰鬱な雰囲気が続く中に、ほんの少しだけコメディっぽい要素が登場するようなダークな作品がね。私は時として、最後まで一貫して同じ雰囲気が続く作品よりも、そう言ったコントラストがある作品の方が面白い場合もあるって思ってるんだ。
Malström:
ご自身の作品の中で、何か日本人プレイヤーにおすすめのタイトルはありますか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
それはちょっと難しい質問だね。その人たちがどんなものを好み遊んでいるのかを知らないと、誰かに特定の作品を勧める際に悩んじゃうし、難しいな。ただ、おそらく『Cthork Borg』は最も親しみやすいんじゃないかな。
あとは日本のゲームソフト『オウガバトルサーガ』シリーズの影響を受けて、RPGボードゲーム的な『Over War』という作品も試しに作ってみたんだけど、これもおすすめです。これはユニットを編成して戦うタクティクスなゲームなんだけど、従来のターン制RPGとは違って、あらかじめセットした命令に従って戦闘が進行していくストラテジーRPGになってるんだ。このゲームは他とは全然違ったゲームになったし、何よりデザインするのが楽しかったよ。
『Over War』はゴシック・ハイファンタジーの世界観を舞台に、強大な帝国に支配された者たちを率いて軍勢を編成し、占領軍に立ち向かっていくストラテジーTRPGです。『オウガバトルサーガ』の他にも『ファイアーエムブレム 』や『ラングリッサーシリーズ』などの影響も受けていると名言されています。また現在は『Over War』用のシナリオも3編リリースされています。
この2作品とは別に、私はやはり『Rod, Reel & Fist』をお勧めしたいですね。この作品は『Cthork Borg』や『Over War』とは異なり、ルールも簡単で非常に明るい雰囲気の作品です。
『オウガバトルサーガ』シリーズは、1993年に日本のクエストから発売されたリアルタイムストラテジーシミュレーションRPG『伝説のオウガバトル』をはじめとした作品群です。様々な種族やクラスからなる自軍のメンバーを小チーム(ユニット)として編成し、指揮していきます。
Malström:
これまでご自身でデザインされたTRPGの中でお気に入りの作品はありますか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
うーん。どれか一つと言われると分からないけど、私はいつも、今現在製作中の作品に一番興味があるよ。
Malström:
ゲームを作る上で好きなジャンルや、得意な分野はありますか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私はサバイバルホラーというジャンルが好きです。でも暖かい日常のワンシーンを切り取ったようなテーマのゲームも好きだな。なので、例えば『牧場物語 ハーベストムーン』と『バイオハザード』を合体させたようなゲームがあれば、ぜひ遊んでみたいなあ(笑)
Malström:
あなたがデザインしたゲームの中で、一番人気がある作品はどれですか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
itch.ioの分析データ上では『Rod, Reel, & Fist』か『Cthork Borg』のどちらかになると思うよ。
Malström:
Sprinting Owlさんは、よくitch.ioなどのバンドルに参加・主催されていますが、バンドルなどのイベントを積極的に行う理由やモチベーションは何かあるのでしょうか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私がバンドルを主催する理由はとてもシンプルです。以前自分の作品を他のバンドルにいくつか出したところ、非常に売り上げがよかったんだ。その当時は、自分の作品を売ることに苦労していたから、誰かがバンドルを主催して自作ゲームの販売を手助けしてくれたのがとても嬉しかった。その経験から、私はバンドルには積極的に参加して行きたかったんだけど、他にバンドルが主催される機会はあまり多くはなかったんだ。そこで、参加するだけでなく、自分で主催してしまおうと思ったわけです。
私の望みは、多くの人がバンドルを通して、普段なら出会うことのない様々な作品を見つける機会を作ることです。バンドルの中に知っている作品が1つや2つはあるだろうけど、残りの50作品は知らない作品かもしれない。それでもバンドルを手に取るきっかけにはなるし、そうすることで、インディーズゲームの認知度を広げる役に立ちたいなと思っているんだ。
本インタビューを行った2022年12月にも、Sprinting Owlさんはitch.ioにて「Traditions」というバンドルを主催されています。Traditions(伝統)というタイトルが表すように、新旧含めたあらゆる”伝統的なもの”をテーマに、様々なTRPGが一つのバンドルに集まっています。わずか25$で70作以上のTRPGをに入手することができるこちらのバンドルは、2023年1月中旬まで開催中です。
Malström:
今はどんな活動や作品の制作をされていますか?
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
色々やってるよ。TRPGを作っていることが多いけど、他にもフリーランスの仕事があったり、執筆や編集なんかの仕事もやっています。
今制作中の作品のことであれば、50~60ページほどの『Over War』の拡張とか、カードをベースにした『Black Ice White Dragon』というサイバーパンクRPGも作っています。あとはバイオハザードを意識したMörk Borgハックなんかも作っているんだ。現段階で内容は100ページほどにもなっているんだけど、これからテストプレイをたくさんやる必要はあるだろうな。まだ他にも色々あって、PbtAをベースにした、現代社会に逃げ込んだチェンジリングのTRPGとか、1ページTRPG、他の人の作品の拡張なども作っています。
Malström:
ありがとうございました。最後に日本や世界のTRPGプレイヤーたちに向けてメッセージをお願いします。
Sprinting Owl(スプリンティング・アウル)氏
私は今、TRPG界隈で盛んに翻訳が行われていることを非常に嬉しく思っているんだ。私自身はあまり日本語は読めないんだけれど、それでも日本語の作品が英語に翻訳されていたり、英語の作品が日本語に翻訳されているのを見るのがとっても楽しいし、何より嬉しいんだ。
言語の壁のせいで、クールなデザインや世界観を持った素晴らしいTRPGが、人知れず埋もれてしまっているなんてことも多々あると思う。だからこそ、言語の壁が崩れていくことは本当に良いことだと思っています。ありがとうございました。