[Kickstarter特集]『Zephyr』について作者に聞いてみた
海外で活躍するインディーズTRPGクリエイターにお話を伺う、クリエイターインタビュー第二弾。今回は、現在Kickstarterにて最新作『Zephyr』のクラウドファンディングを行なっている、Fede(フェデ)さんに、ご自身の活動と、『Zephyr』というTRPGの魅力についてお話を伺いました。
『Nibiru(ニビル)』は記憶を失い、流離人(ヴァガボンド)として転生したPCたちが、ニビルと呼ばれる、謎の超巨大構造物の中をさすらい、自らの記憶を取り戻すために冒険するメソポタミアチックな雰囲気のSFTRPGです。PCたちは最初技能を持っていませんが、セッションの中に記憶を思い出すことで、技能を創作していくのが特徴です。
『Nibiru(ニビル)』は無料の日本語版クイックスタートが、Araukana Mediaの公式サイトよりダウンロードできます。クイックスタートでは複数あるPCタイプのうち、「ブライトタウン」と呼ばれる異世界からの転生者PCを作成することができ、「ベルタの歌」という付属シナリオを遊ぶことができます。
フェデさんに『Zephyr』の魅力について聞いてみた
※インタビューは12/17(JST)に行われたものです。
Malström:
まず最初に、自己紹介をお願いします。
フェデさん
Fede(フェデ)といいます。TRPG業界で活動する、アルゼンチン出身のゲームデザイナーです。TRPG関連の仕事を始めたのは2015年頃、ちょうどロンドンに引っ越したときです。アルゼンチンではこういったことを仕事にするのは難しかったので、ロンドンに移り、大きなTRPGクラブの会員や代表者などをしていました。最終的にModiphiusに入社し、『Fallout』や『Dishonoured』の制作に携わりました。
仕事と並行して自作のゲームも開発していました。それが『Nibiru(ニビル)』です。2019年に自分の会社「Araukana media」を立ち上げて、2022年にはAraukanaに専念するためにModiphiusを退職し、独立しました。そして、同じ年に日本に引っ越してきました。
Araukanaでは、一人ですべてをこなしています。ワンオペです。『Nibiru』では、イラストは他の人が担当しているし、もちろん編集や校正などをする人は他にもいました。しかしそれを除けば、デザイン、文章、レイアウト、その他すべてが私の仕事です。そして新作『Zephyr(ゼファー)』では、イラストも私が描いています。
Malström:
『Zephyr』はどんなテーマのゲームですか?
フェデさん
『Zephyr』は、簡単に言うとファンタジーゲームです。でも、RPGでよく見るようなトールキン作品群とかとは違う、非伝統的なファンタジーです。
舞台は、塩原を彷徨う生きている大陸で、実際に感情を持っています。そして、その感情こそが「Zephyr」と呼ばれるものです。感情は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、まさに印刷物に使用する4色に分類されます。この、壮大で、解釈しにくい「Zephyr」を組み合わせることによって、憤怒、悲哀、切望、追憶といった、私たちでも理解できる感情を創造するのです。これらは物理的に形を持っているので、この大陸を成形する山、川、湖などを築いています。PCである「Windfolk(風の民)」もまた感情から生まれた生き物です。彼らは辺境にある小さなコミュニティで暮らしていて、時が来ると、「Sacred obligations(聖なる義務)」を果たすために旅に出ます。
コミュニティはお互いを支え合っていますが、ときどき、困難に見舞われることがあるでしょう。たとえば、疫病や他の災いを治めるために、特殊な品物が必要になることもあります。義務はそういった時に設けられるものです。これは、その義務にまつわるゲームです。
Malström:
前作は記憶、今回は感情と精神的なモチーフが続きますが、そういったものを一貫して題材にしているんでしょうか?
フェデさん
そういうわけではないです(笑)ただ、だからと言ってまったく調べ物をしなかったわけではありません。感情についてはあんまりですが、人類学、政治や社会についてはたくさん調べました。
私は、言葉や物事の意義を考えるところからゲームを開発することが多いんです。たとえば、『Nibiru』は記憶とアイデンティティを中心に、自然や人工性といったテーマを加えて、その関係性に焦点を当てました。テクノロジーと自然がどういうふうに関わり合っているのか、と言った感じで。今作は感情と人格がテーマだから、どんなキャラクターを作るかが、そのキャラクターが世界に対して抱く感情を決定することになる。それに、責務と義務という他の指標もあります。「Windfolks(風の民)」たちが住んでいるコミュニティには上下関係も指導者も存在しませんが、彼らと敵対する「塩類領地」は激しい階級社会のもとなりたっています。そういった組織同士はどう交流するのか、どんな共同体をつくるのかなど、そういった方面でたくさんの調査をしました。
Malström:
哲学的な意味が込められているようにも思えますが、メッセージ性についてはどうお考えですか?
フェデさん
確かに、メッセージ性はあるでしょう。
彼らの世界は4つの色でつくられているから、このゲームではダイスの代わりに、4色のトークンを使う。そのトークンを消費したり、移動させたり、いろいろな方法で組み合わせることによって、世界との絆を深めることができる。そこが、このシステムの面白いところです。たとえば、あなたがイエロー、マゼンタ、ブラックを一つずつ消費したら、それは「恐怖」になります。それを消費することは、キャラクターが感じる恐怖を決定するということです。この世界の何に強い感情を抱くのかを定めることによって、キャラクターの人格をつくりあげていくのです。
私たちは感情によって構成されている、というのは興味深い考えだと思います。もちろん、私たちはみな周囲の物事に対する意見を持っていますが、普段の思考を支配するのは、激情なのです。
Malström:
トークンの他に、このゲームならではの特徴はありますか?
フェデさん
たくさんありますよ!『Zephyr』はよく見かける他の作品とはまったく違うゲームです。トークンのように、このシステムはボードゲームとの共通点がたくさんあります。
PCは実質トークンの集まりですし、PLからゲームの世界へ、世界からPLへと動くトークンの流れがあります。彼らが旅に出たら、生き延びるためにトークンを消費しなくてはいけない場面もあるでしょう。そうしたら、また一から集め直さなくてはなりません。そのために、狩りや料理なんかをすることになります。
他には、冒険の組み立て方がストーリーに直結する点が挙げられます。ここでいう冒険とは、彼らが果たそうとしている義務そのものです。たとえば、とあるPCが義務として、コミュニティ内の疫病を治すための花を取りに、大陸を横断しなくてはいけないとします。この時点で、いつまでに、どこに行き、何と戦うのかなど、冒険を楽しむのに必要な要素のリストを考えることになるんです。このリストを参考に、高難易度の課題が多ければ高機能な道具やスキルを、というふうに設定していきます。まさに、コミュニティの仲間が、義務の過酷さにふさわしい知識や道具をそろえてくれるような感じです。ここがいいところだと思っています。プレイヤーは自分で決定した目標や物語に応じて報酬を得ますし、だからこそGMの役割も変化するんです。GMは結末を決める必要ななく、むしろ集中すべきは「どうやって予想を裏切るか?」です。この旅をただのお花摘みでなくするにはどうすればいいか?どうやって物語を膨らませようか?
そういう意味では、これはPLとGMの協力ゲームなのかもしれません。
私たちは感情によって構成されている、というのは興味深い考えだと思います。もちろん、私たちはみな周囲の物事に対する意見を持っていますが、普段の思考を支配するのは、激情なのです。
Malström:
今作はイラストも担当したとのことですが、描いてみていかがでしたか?イラストを描くきっかけはあったんでしょうか?
フェデさん
2019年の終わりに絵の勉強を始めて、翌年の終わりには、その気になればまるまる一作品完成させられそうな気がしたんです。それなら、最初から最後まで描いてみようと思い立ちました。結果的に素晴らしいものができましたよ。この2年間、毎日4時間くらい絵を描いていたおかげでかなり上達しましたし、そのすべてが、まるで成長譚のように、今作の『Zephyr』に収録されているんです。イラストを描き始めた日と描き終えた日を記録してあるから、皆さんも2019年のイラストと2023年のイラストを比較することができるでしょう。とてもおもしろいと思いますよ。
Malström:
日本語版のリリースは今のところ考えていますか?
フェデさん
ぜひやりたいです。日本国外に引っ越す予定もないので、もし日本語版をリリースできたら最高ですね。今年中には日本でも遊んでみるつもりです。あとは、『Nibiru』ももうすでに数か国語で出ていますし、ぜひやってみたいです。もうすでに日本語版クイックスタートがありますが、フルバージョンもきっと素敵なものになるんじゃないかな。
Malström:
最後に、日本の読者のみなさんにメッセージを!
フェデさん
君たちのゲームについてももっと教えてよ!たとえば、もんとろさんの反対みたいな感じで、日本のゲームについて教えてくれる人がいたらいいんじゃないかと思うんです。いうなれば、アンチ・もんとろみたいな(笑)
『Zephyr』について言えば、皆さんのイラストを見るのが待ち遠しいです。『Nibiru』のときに、日本のプレイヤーが描いてくれたPCの立ち絵が大好きだったんです。今回もぜひ楽しみにしています。
Kickstarterについて
Kickstarterでは金額別のPledgeを選択することで、そのPledge毎に決められたリワードを受け取ることができます。プロジェクト成功後のリワードの発送予定は2023年11月となっています。
「Lifespring」(約 ¥4,745)では、PDF版ルールブックと、オーディオブック、そしてあなたの名前と像を始祖の森に置く権利(ルールブックに名前が載ります)がもらえます。
「Translucent Lifespring」(約¥5,532)では上記に加え、4色のトークンがついてきます。
物理版が欲しい人は「Windfolk」(約¥7,903)を!PDF版と物理版ルールブック、オーディオブック、トークンはもちろん、広大な世界マップがもらえます。(日本円の価格は2/5時点のものです。)
『Zephyr』では、すべてのリワードにオーディオブックがついてきます。
様々な環境を考慮し制作され、音声で聞いてもわかりやすいように、創意工夫がなされています。文章を読むのが大変という人も、この機会にぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
巨大な生き物の背中に広がる世界で暮らす、可愛らしくも幻想的な風の民となって、聖なる義務を果たすために壮大な冒険に出かけるファンタジーTRPG『Zephyr』。今回のインタビューを通してもしこの作品に興味を持たれたのなら、ぜひこの機会にKickstarterで『Zephyr』を支援してみましょう。